昨日4月26日にペット・ショップ・ボーイズの最新アルバム'Nonetheless'がリリースされました。26日になった瞬間、Spotifyでは配信が始まったので一足先に(?)聞きました。月並みな感想ですが最高ですね。もっと聴きこんで、Annuallyが届いたらまたいずれアルバムレビューを書こうと思います。
また、アルバムに先立って4月3日にはセカンド・シングル"Dancing star"がリリースされました。
このシングル"Dancing star"については、全曲の和訳を当ブログでは掲載しています。今回の記事では、改めて各曲の雑感というか印象というかレビューを書きたいと思います。
↓"Dancing star"の和訳です。
pgrobert.hatenablog.com
↓"Sense of time"の和訳です。
pgrobert.hatenablog.com
↓"If Jesus had a sister"の和訳です。
pgrobert.hatenablog.com
1. Dancing star
この曲はソ連のダンサー、ルドルフ・ヌレエフをモデルに作られた曲です。彼についてあまりよく知らなかったので、調べて簡単に生涯をまとめてみます。
彼は1938年、走行中のシベリア鉄道の中で生まれ、バシキール自治共和国*1の首都ウファで育ちました。
6歳のとき、ウファの劇場でバレエを見てダンサーになることを決意、父親には反対されたものの、地元でバレエのレッスンを受けました。
やがてレニングラードのバレエ学校*2に編入し、名教師アレクサンドル・プーシキンに指導されました。卒業後、1958年キーロフ・バレエ団*3にソリストとして入団。
1961年、キーロフ・バレエ団初のパリ公演では「ダンサーが国外でどのようにふるまうべきかKGBから指令があったにもかかわらず、ヌレエフはフランスのダンサーと交流し、街を散策し、ホテルには決められた時間よりも遅く戻った」。*4
あるいは、「ヌレエフは、外国人との交際に関する規則を破り、パリのバーに頻繁に出入りしていたとされ、キーロフの経営陣と彼を監視していたKGBの諜報員を憂慮させた」。*5
そしてパリ公演を終えた一行が、ル・ブルジェ空港から次の公演地ロンドンへ出発しようとした時、彼だけはモスクワで踊るよう帰国を命じられたのです。大事な公演があるとか母が危篤だとか理由をつけられたようですが、彼はソ連からの「国外出国禁止命令」だと理解し、そのままフランスに留まる=亡命することを選択しました。
According to a Reuters report from Paris he decided, just as a plane was leaving there with the other members of the company, to seek political asylum in France.
(中略) The rest of the company boarded the aircraft and Nureyev then dashed through the barrier where two French police inspectors were standing and shouted in English: “I want to be free.”*6
当時の新聞にはこう書いてあったみたいです。ここにはル・ブルジェ空港ってありますが、PSBはオルリー空港と歌っています。ここの齟齬はいまいちよくわかりません……
さて、ソ連から亡命して以降は、ロンドンでマーゴ・フォンテインと出会ってロイヤル・バレエ団で共演したり、コペンハーゲンで知り合ったエリック・ブルーンとは、密な関係を持ったりしました。 そして最終的に1993年AIDSで亡くなります。
彼はアマルフィに邸宅を持っていたようで、それが冒頭の歌詞に反映されています。
2. Sense of time
タイトルはSense of timeですが、曲中ではNo sense of timeと言っていて、全く真逆です。
全体的に歌詞がめちゃくちゃ重いのですが、背景とかの推測も何もできないので、きっとAnnuallyで解説されているはず……!と信じて、この項は終了します。
3. If Jesus had a sister
表題よりも好きな曲です。たまにある、カップリングの方が好きになる現象。(笑)
PSBの曲でイエスが登場する曲というと"Searching for the face of Jesus"*7がありますが、あれはエルビス・プレスリーについて歌った曲なので、直接イエスに言及する曲としては初めての曲になります。
さて、この曲についてなのですが、歌詞を読み解いて衝撃を受けたのはかなり久々でした。
そもそも、現代の視点で「もしイエスに妹がいたら……」と言うなら If Jesus had had a sister じゃなきゃおかしいんですよね。過去の事実に反することを言うなら仮定法過去完了を使うので。でもこの曲は仮定法過去が使われているので、現代から振り返って想像しているわけではなく、イエスがいた当時の視点で「もしイエスに妹がいたら……」と想像する曲になっている。
実際 Of course he has a mother と言っているので、当時の視点であることは間違いない。*8
そして……
Climbing up a mountain
preaching to one and all
It might sound like a humble sermon
but pride comes before a fall
The truth may still elude us
but it’ll catch up in the end
or my name isn’t Judas
and Jesus is not my friend
山上に登って
誰彼問わず説教をして
謙虚な説教に聞こえるかもしれないが
心の高慢は倒れに先立つ
真実はまだ見えてこないかもしれないが
最終的には追いつくだろう
もしくは私の名前はユダではないし
イエスは私の友ではない
ここに来て、語り手がユダであることが判明します。大どんでん返し。「AGAIN」を初めて聴いた時にも同じ感覚を味わいましたが、これもまた衝撃。
ニールのストーリーテリング力をまざまざと突きつけられました。
*1:現バシコルトスタン共和国、ロシア連邦を構成する国の一つ。
*2:現サンクトペテルブルクのワガノワ・バレエ・アカデミー
*4:「なぜバレエダンサーのルドルフ・ヌレエフは没後26年の今も世界中で人気なのか」https://jp.rbth.com/arts/81952-bareedansa-rudorufu-nureefu-sekaijyuu-de-ninki
*5:「ルドルフ・ヌレエフ命日」https://www.j-news-uk.com/single-post/%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%8C%E3%83%AC%E3%82%A8%E3%83%95%E5%91%BD%E6%97%A5
*6:"Russian ballet star Rudolf Nureyev asks for asylum – archive 1961" https://www.google.com/amp/s/amp.theguardian.com/stage/from-the-archive-blog/2021/jun/16/rudolf-nureyev-asks-for-asylum-ballet-1961
*8:現代から振り返るなら he had a mother と過去形でなくてはおかしい。