pgrobertのブログ

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ペット・ショップ・ボーイズの4年ぶりシングル「Loneliness」、全曲レビュー。

今年の1月31日、ペット・ショップ・ボーイズが4月26日に4年ぶりの最新アルバム'Nonetheless'をリリースすると発表され、同時にアルバムから先行シングル"Loneliness"がデジタルリリースされました。また、4月3日にはセカンド・シングル"Dancing star"もデジタルリリースされました。

さて、その先行シングル"Loneliness"は2月16日にCDシングルとしてリリースされましたが、前回のアルバム'Hotspot'からは全てのシングル*1がヴァイナルリリースされていたのに、今回の"Loneliness"がヴァイナルになっていないのは不思議な感じがします……そのうち出たりするのかな?

このシングル"Loneliness"については、全曲の和訳を当ブログでは掲載しています。今回の記事では、改めて各曲の雑感というか印象というかレビューを書きたいと思います。

↓"Loneliness"の和訳です。
pgrobert.hatenablog.com


↓"Party in the Blitz"の和訳です。
pgrobert.hatenablog.com

↓"Through You (extended mix)"の和訳です。 pgrobert.hatenablog.com

1. Loneliness


とにかく最高。ファーストシングルとしてはこれまでにない満足度があります。前回までのStuart三部作からのファーストシングル*2もPSBらしくどれも好きではあるのですが、ここに来てこんな曲を作れる彼らがすごい!
そしてこの"Loneliness"は、既に発表されているアルバムのトラックリストによれば1曲目になるみたいですね。アルバム1曲目がファーストシングルになるのは'Electric'の時の"Axis"以来です。
個人的には、PSBというグループについて世間一般でイメージされるような「いかにも」なエレクトロ・ポップももちろん好きですが、「オーケストレーションとダンストラックのコラボレーション」な今回のアレンジはもっと大好物です。

この「オーケストレーションとダンストラックのコラボレーション」に関しては、The Guardianのインタビュー記事*3にこんなことが書かれていました。

.... And they brought their lockdown fruits to a new producer, James Ford, having rated his knack for strings on albums by the Last Shadow Puppets and Arctic Monkeys. “Also being in Simian Mobile Disco, we knew he was really good at analogue synth programming,” says Lowe. “The combination of those two things is basically the sound of the Pet Shop Boys: electronics with strings.”
The result, new album Nonetheless, is gorgeous: buoyant with optimism, it basks in songwriterly lusciousness after a trilogy of harder albums with producer Stuart Price, Electric (2013), Super (2016) and Hotspot.

……そして彼らはロックダウンの成果を、ラスト・シャドウ・パペッツとアークティック・モンキーズのアルバムでストリングスの才能を評価した新しいプロデューサー、ジェームス・フォードにもたらした。「Simian Mobile Discoにも出演していたので、彼がアナログ・シンセ・プログラミングに非常に優れていることはわかっていた」とロウは言う。「これら二つの要素を組み合わせたもの、つまりストリングスを備えたエレクトロニクスが、基本的にペット・ショップ・ボーイズサウンドだ。」
その結果、ニュー・アルバム"Nonetheless"はゴージャスだ。楽観的で軽快で、"Electric"(2013)、"Super"(2016)、"Hotspot"という、プロデューサーのスチュアート・プライスとのハードなアルバム三部作を経て、ソングライターとしての甘美さに包まれている。

クリスは「ストリングスを備えたエレクトロニクス」がPSBサウンドのベースだと、このインタビューで言っています。個人的には自分のPSBサウンドの原体験である'Nightlife'*4を思い出させて「どこか懐かしさ」を感じたんだな*5と合点がいった次第です。

さて、

Like Ringo walking by the canal
downcast and alone
You’re taking time to play that part
A man who skims a stone

この一節は"A Hard Day's Night"(『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』)のこの場面のことらしいです。
youtu.be
確かにリンゴ・スターがとあるインタビューでこんなことを言っていたようで、*6

The scene in 'A Hard Day's Night,' the one I got all the credit for was the walking by the canal with the camera-- the lonely guy scene-- That came about because I came to work, very unprofessionally, straight from a nightclub. And I was a little hungover to say the least, you know. I was just so out of it so they said, 'Let's do anything.' So my version of it was 'Just let me walk around and film me.' And why I look so cold and dejected is because I felt like shit. So, no acting going on there. I just felt so bad.

このインタビューの中で彼は walking by the canal とか the lonely guy scene とか言っているので、ものすごく"Loneliness"の歌詞と符合しています。
ところで"Loneliness"の歌詞といえば、

Everybody needs time to think
Nobody can live without love

誰しも考える時間が必要だ
愛なしでは誰も生きられない

ここのフレーズは、実は彼らが一番この曲で言いたいことなんじゃないかと勝手に思ってます。この部分だけアレンジが変わってグッと聴かせる感じになってますし。


2. Party in the Blitz


初めてこのシングルを聴いたとき、実はあまりハマらなかったんですけど、何回も聴くうちに「面白い曲だな」と思うようになりました。いわゆる「スルメ曲」ですね。(笑)
さて、「ザ・ブリッツ」とはナチス・ドイツによるロンドン大空襲のことで、1940年9月7日から1941年5月10日まで続きました。歌詞に出てくるMornington Crescentはこの空襲の最初期に爆撃されました。*7

そんな戦火にあってパーティに興じる人々。生きるか死ぬか、紙一重で決まる状況下では刹那の愉楽こそ全て、という感じなんでしょうか。でも「大事なところは縮んで」る(Dick shrinking)ので、パーティをしつつも緊張感はすごいんでしょうね。
そうした状況で「実存主義を説明しようとしていた」(I was trying to explain / existentialism)のは、戦火では個人なんて吹けば飛んでしまうけれども、それでも人間としての実存在は消えないから、ということなのかな……


3. Through You (extended mix)


曲調に騙されそうになりますが、この曲の語り手はなかなかに陰険な人物のようです。
何と言っても、

It’s not enough to succeed
others must fail
There is your mantra
bitter and stale
It’s not enough that you win
others must lose
Dreams have to die
What’s your excuse?

成功するだけでは十分じゃなくて
他の人たちが失敗しなきゃいけない
苦く古臭くなった
君のマントラがある
勝つだけでは十分じゃなくて
他の人たちが負けなきゃいけない
夢は消えてなくなる必要がある
言い訳はなんだい?

ですからね。徹底的に自分以外の不幸を願っている。
個人的には「マントラ」というと

記憶の底に 目を凝らし 潜って
埋もれたマントラを探して唱え始めよ

という、ポルノグラフィティREUNION」の一節を思い出します。どちらも「古くなっている」という点では共通しますが、かたや「古臭い」と嘲笑し、かたや「記憶のそこから探り当てろ」と鼓舞する。
ここだけ取ってみても、"Through you"の語り手の「邪悪さ」がよく分かります。
ところで、extended mixってことは「ノーマルヴァージョン」もあるってことなんですかね?
"The Way Through The Woods"は初めLong versionしか出なかった*8けど、後で日本盤'Elysuim'のボーナストラックになった、みたいな例もありますし……

*1:"Dreamland"、"Burning the heather"、"Monkey business"、"I don't wanna"。しかも"Burning the heather"に関しては、フィジカルリリースが7インチヴァイナルのみでした。

*2:'Electric'(2013)なら"Axis"、'Super'(2016)なら"The Pop Kids"、'Hotspot'(2020)なら"Dreamland"。

*3:‘Music has ceased to be ageist’: Pet Shop Boys on 40 years of pop genius – and their hopeful new album https://www.theguardian.com/music/2024/feb/03/pet-shop-boys-nonetheless-interview

*4:'Nightlife'が原体験という話は https://pgrobert.hatenablog.com/entry/2022/02/23/232528 参照。

*5:和訳記事参照。

*6:以下の引用は「The Beatles Ultimate Experience」 http://www.beatlesinterviews.org/dbmovies.html より。

*7:リンク先、空襲直後の画像が見られます。→https://en.m.wikipedia.org/wiki/File:London_Blitz_9_September_1940.jpg

*8:"Winner"のカップリング。