pgrobertのブログ

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ポルノグラフィティのシングル「テーマソング」、今さらながらレビュー。

ポルノグラフィティの最新シングル「テーマソング」。
今回のシングルは、収録されてる3曲がどれも熱量の高いもので、いっそ〝トリプルA面シングル〟でもよかったんじゃないかと思うような、そんな印象を受けます。

リリースから3ヶ月が経ってしまいましたが、今回はそんなシングル「テーマソング」のレビューです。


1. テーマソング

「応援歌を書くのは苦手」だと言う晴一が満を持して(?)送り出す応援歌、タイトルもものすごくストレートな「テーマソング」。
音楽ナタリーのインタビューで
「「テーマソング」の歌詞はものすごくストレートに書かれている印象もありますよね」
というインタビュアーさんに、晴一は
「今回はそうしました。聴いてくれる人の背中をてらいなく押そうっていう。「今の状況のエンタメはそういうもんやん?」っていうね」
と答えています。*1

確かにGReeeeNFUNKY MONKEY BABYSに代表されるような「分かりやすい」応援歌はなかったかもしれないけど、背中を押してくれるような曲はポルノグラフィティにはたくさんあります。*2
だからこそここにきて「フレーフレー」と言ってくれることにグッとくるんですよね。

でも、とは言いつつ「ストレート」な応援歌にしないのはさすがの晴一節。

歴史学者のペン先が 決して描くことのない
ささやかな私のストーリー 退屈なことには慣れている

人それぞれに人生があるんだけど、「有名人」とか「偉人」とかでなければほとんど「歴史学者」の目には触れない。「名もなき市井の人々」と一緒くたにされる。そのことをチクリと刺すような感じはまさに晴一節。*3*4

立っているこの場から 半径3mより外は
いつもにぎやかで 妙に焦るんだfeel bad

諸説ありますが、いわゆるパーソナルスペースがだいたいこのくらいの範囲。つまり、3mより内側は親密な付き合いのある人たち、それより外は「赤の他人」の領域。
要するに「自分と他人を比べて焦る」という話だと思うのですが、

人が言う大事と 僕の言う大事とは
並べて比べてみたって意味なんかなかったみたい

という「メジャー」を思い出す一節です。

壮大なテーマソング 流れりゃその気にもなるかな
耳に届く音はいつも 不安な鼓動のドラムだけ
フレーフレー この私よ そしてフレー 私みたいな人
ともに行こう 拳あげて 誰のためでもない This is all my life

そして繰り出される「フレーフレー」という「ど真ん中ド直球」のフレーズ。
でもその直前を見たら、この歌詞の語り手は現状に満足してなくて、世の中にあるテーマソング=応援歌に仮託しようとするんだけど、それが叶わないから自分で自分を奮い立たせようとして出てきた「フレーフレー」なんですよね。
おそらくそれは誰しもが経験のあることで、だからこそその後で「そしてフレー 私みたいな人」と歌われるのだ。つまりここで語り手=歌い手であるポルノグラフィティと聴き手である私たちリスナー全員を鼓舞するフレーズになっていると思うのです。

「ただ自分らしくあれば それが何より大切」
などと思えてない私 何より厄介な存在

気がつけば 口癖が 自分を縛る呪いみたいで
嘘でもいい I can do it I can do it 言い切ってしまおう

ここは「ギフト」の

どこかで僕を悪く言う声 耳を塞いでやりすごしてた
それでも聞こえる なんだ自分の声じゃないか

を思い出す部分です。自己肯定感を持てないことだってあるし、「どうせ自分なんて……」みたいなマイナス言葉を言い続けていたらどんどん気分が沈んでしまう。
そういうときこそハッタリでも構わないから「自分はできる!」と言うのが大事。そんなことに改めて気付かされます。*5

諦め 苛立ち 限界 現実 飲み込み過ぎて喉が渇く

これもあるあるですね。現実にぶちあたって限界を感じて焦燥感にかられたり、諦めを感じたり。でもそれが続くと心がどんどん磨り減っちゃうのが辛い……

ほら 振り向けば夕日があって 燃えるような熱い赤
その胸は 震えてるか?

ここは歌い出しと歌い終わりの

ほら 見上げれば空があって 泣きたくなるほどの青さ
ほら 雲のような白いスニーカーで 高く高く登ってゆけ

と対応する部分。
無限に広がる青い空に仮託して心を開放させようとするか、真っ赤な夕日のごとく熱い志を持つか……言わんとしていることは同じですが、「その胸は 震えてるか?」でハッとさせられます。


2. REUNION

昨年年末に行われた有観客&配信のハイブリッドライブ「CYBERロマンスポルノ'20~REUNION~」*6で初披露。当時リリースの予定はなしとされていましたが歌詞変更&Cメロ追加を経てついにリリース!

ライブ版も相当格好いいと思っていたのに、音源になってブラッシュアップされてさらに格好良さが増したのは彼らの底知れなさを感じさせます。スゴすぎる。

特に新しく加わった

我と彼を隔てるのは 此処と其処を割かつのは
止まった思考と 固定された視点だ
I am you, Here is there 真理を孕んだこの矛盾

なんか物凄いことを歌っていてもはや哲学の領域。

そもそも晴一が言うには「昭仁の考えた“REUNION”を繰り返すサビはもう念仏みたいなもんだから(笑)」*7歌詞も内省的なものになったようですが、だからこそ「瞑想」とか「マントラ」とか仏教的なワードが出てくるし、哲学的な歌詞にもなるし、と一人合点した次第です。

音源化にあたって歌詞で変わった部分は多くありますが、特に大きな変化はサビの歌詞だと思っています。

意思を紡いで 縒り合わし 幾千の
決して切れない意図に変えて張り巡らせる

記憶の底に 目を凝らし 潜って
埋もれたマントラを探して唱え始める

ライブ版は「張り巡らせよ」「唱え始めよ」と命令形だったのに、音源版は「張り巡らせる」「唱え始める」と言い切りの形になっています。
ライブ版は「REUNION」したファンに向けたメッセージになっていたのが、音源版は彼らポルノグラフィティがファンに向けて宣言する決意みたいになっていて、どちらもいいなと思うのです。

3. IT'S A NEW ERA

初聴きで思ったこと、

「ディス・イズ・ザ・Queen!!!!!!」*8

あんまりこれ指摘してる人いないんですよね……
歌詞の「海」とか「船」とかからONE PIECEを連想する人の方が多くて。
晴一本人も「曲に関しては、自分が元々好きなミュージカル音楽からの影響があったような気がします」*9って言ってるし。でもこの直後にインタビュアーさんが
「物語性を感じさせながらドラマチックに展開していく曲ですよね」って指摘してるの、それまんまQueenのことじゃん!って。


さて、ここから個人的にどの辺がQueen的だと感じるかを挙げます。次の三つです。

We Will Rock You
②「七つの海」
③ギターのフレーズ、曲のアレンジ


We Will Rock You

歌詞の中でも「手を叩いて 足を鳴らして」とありますが、サビのところのリズム、特に歌い出しと大サビの始まりは完全に"We Will Rock You"の「ズンズンチャ」。
そういえば「神vs神」2日目の「Mugen」の最初の煽りパートでドラムのリズムはもろに"We Will Rock You"だったし、ギターのフレーズも"We Will Rock You"でブライアン・メイが奏でてたようなフレーズだったしな……と思い出したり。

②「七つの海」

Queenで「七つの海」といえば、'QueenⅡ'収録の"Seven Seas of Rhye"、邦題「輝ける七つの海」。まさにそのままのタイトル。タイトルに入っているRhye(ライ)はフレディ・マーキュリーが妹と生み出した架空の王国。
'Queen'収録の"My Fairy King"、この"Seven Seas of Rhye"、そして'Sheer Heart Attack'収録の"Lily of the Valley"が「ライ王国三部作」とされています。
「この国の王は 顔を持たぬ者」と歌詞にもありますが、もしやこの「国」はライ王国のこと!?

③ギターのフレーズ、曲のアレンジ

Bメロで聴こえるギターのフレーズは"I Was Born to Love You"に出てくるものと似てるし、(動画3分24秒あたり)
youtu.be

ラストサビ直前の間奏でどんどんキーが上がっていくところは"Bohemian Rhapsody"のハードロック・パートの後半部分のフレーズっぽいし、(動画4分45秒あたりから)
youtu.be

ラストサビで加速するアレンジはもろにBBC Sessionの"Spread Your Wings"だし、、
youtu.be


もしかしたら他にもあるかもしれませんが、我ながらよくこれだけ見つけたなと思います。そもそも全体的にギターのリフがQueenっぽいんですよね。


そして歌詞に注目すると

不安は幻想に 影絵の狼のように
本当からの距離が遠ざかるほど闇は巨大になってく

という部分は「テーマソング」のサビ

耳に届く音はいつも 不安な鼓動のドラムだけ

とオーバーラップします。実際、インタビューでも晴一は「「IT'S A NEW ERA」は曲調が違うので違う言葉を選んでますけど、伝えたいことは「テーマソング」とまったく一緒ですね」*10と言っています。

夜明けを待って さあ船を出そう
目指すのは 新世界
私のための 場所がそこにある
約束は(ついに)果たされる(のさ)

歌い出しと歌い終わりの歌詞。「誰より早く朝を迎えに」いった「シスター」とリンクするのもそうですが、
「あれは夜な夜な語った夢と 果たせないままの約束たち」(ひとひら)
「夜ごと君に話していた約束は今も果たせず」(AGAIN)
「夜ごと君に話した約束たち/今も果たせずにいて」(VS)
とずっと果たせずじまいだった約束がついに果たされる時がくるなんて……!と泣きそうになる部分です。




いつも期待を裏切らないどころか期待を越えていく彼らに、改めてついていこうと思わされたシングル「テーマソング」でした。

*1:ポルノグラフィティ「テーマソング」インタビュー|母船に帰還した岡野昭仁新藤晴一、新時代に懸ける2人の思い」https://natalie.mu/music/pp/pornograffitti06 より。

*2:https://pgrobert.hatenablog.com/entry/2021/09/22/130810 この記事で「個人的ポルノグラフィティ応援歌10選」について語っています。

*3:これはこの間櫻井くんのNewsweek寄稿のレビューでも書いたこととも重なりますね。

*4:ただ、最近は「ライフストーリー研究」というのが徐々に広がっています。

*5:実際、「根拠のない自信」はすごく大事だと思います。

*6:しかも今回初回限定盤にはこのライブのDVD/Blu-rayが付属!

*7:ポルノグラフィティ新始動。コロナ禍が明けたとき、みんなで歌う希望の“テーマソング”」https://www.thefirsttimes.jp/interview/0000027038/ より。

*8:もっと言うと「農夫と赤いスカーフ」っぽいとも思いました。ギターの雰囲気とか。でも結局それってQueenっぽいってことなんですよね。

*9:ポルノグラフィティ新始動。コロナ禍が明けたとき、みんなで歌う希望の“テーマソング”」https://www.thefirsttimes.jp/interview/0000027038/ より。

*10:ポルノグラフィティ「テーマソング」インタビュー|母船に帰還した岡野昭仁新藤晴一、新時代に懸ける2人の思い」https://natalie.mu/music/pp/pornograffitti06 より。