pgrobertのブログ

好きな音楽や美術について。ときどき脱線。

Go Westに関する小話。

先日の来日公演でも本編のトリを飾ったペット・ショップ・ボーイズの代表曲、Go West。
このGo Westについて、少し掘り下げてみたいと思います。

来日公演のレビューはこちらから↓
pgrobert.hatenablog.com


元々は1979年にヴィレッジ・ピープルが発表した曲で、PSB版は1993年のリリース。
そのヴィレッジ・ピープル版の7インチレコード(日本盤)とPSB版のCDシングル各種。
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元々"Go West"=「西へ行こう」というのはアメリ東海岸から西海岸へ行こう、つまりLGBTに寛容なサンフランシスコへ行こう!という曲でした。そこが彼らにとっての「理想郷」だったわけです('We'll find our promised land')。
それが80年代になりエイズが猛威を振るった結果、PSB版はそのことに対して悲観的な雰囲気を帯びています。

クリス:僕が好きだったのは歌詞なんだよ。当時としてはすごく啓発的だった。ある種の人々にとっては、アメリカ西海岸に移り住むってことはイコールよりよい人生を意味していた。それを90年代に歌うことには全く新しい意味があるんじゃないかって考えたんだ。状況は実に酷いことになっていたしね。だからこの曲の意味も全く違ったものになった。ペーソスが加わったんだ。

ニール:それが僕たちの狙いだった。ヴィレッジ・ピープルでジャック・モラーリがこの曲を書いたとき…70年代の終盤のことだけど、それはひとつの大きな「ゲイ・ドリーム」だった。TVシリーズに出るとか、小説の“Tales of the City“とか。

クリス:ああ。そうだね。

ニール:オーガスト・モウピンのTVシリーズを思い出すよ。みじめな東海岸を捨てて、みんなでサンフランシスコに移り住むんだ、自由な人生を謳歌する。すぐそこにエイズの脅威が迫っているなんて誰も知らなかった時代だよ。僕たちのバージョンはそういうことに対して少し悲観的な感じになってる。

('Popart'ブックレットのコメンタリーより引用)


さらに言うと、Go Westはソ連国歌とメロディがそっくりで、PSB版は「社会主義を捨てて資本主義国家へ行こう=西側へ行こう」という意味合いも含んでいます(特にPVにおいて)。

(上の続きで)ニール:同じく興味深いのはこの曲が東欧では政治ソングになったってこと。ビデオ・クリップを作るにあたって、モスクワに行ってロシア版MTVを発足させることを決めた、1993年のことだ。ビデオ・ディレクターのハワード・グリーンホフに同行してもらってモスクワで映像を取った。理由は単純、東にいる者は西を目指すから。驚くべき偶然なんだけど、「ゴー・ウエスト」は旧ソビエト国歌にすごくよく似てるんだよ。そもそも旧ソビエト国歌を基に作ったんじゃないかと思うくらい、ほとんど同じに聴こえる。つまり、見かけ上僕たちは変革期の1993年ロシアで、旧ソビエト国歌を「ゴー・ウエスト」の歌詞で歌ってた、ってこと。だからこの曲は特にロシアで政治的な意味合いを持つことになった。東欧の多くの国でそうであったようにね。

("Popart"ブックレットのコメンタリーより引用)


何にせよ、元々がゲイを全面押し出したグループだったビレッジ・ピープルの歌かつその歌詞の内容から、現在ではゲイ・アンセムとしても認知されることも多いこの曲。
それ以上の意味は特にないだろう、と思っていたのですが、先日読んだある本に


「死ぬの婉曲表現にgo westというのがある」


と書かれていました。

どうやら

西=太陽の沈む方角=死を連想

ということらしいのですが、このくだりを読んだ時にはしばし絶句。
ヴィレッジ・ピープル版で歌われた通り西であるサンフランシスコを目指したらそこは理想郷だったはずなのにエイズのおかげで死に至る場所になっていた……それゆえ、PSB版の悲観的な雰囲気があるのだ……


そんな「深読み」までできてしまうGo Westはけだし名曲!ということですね。