pgrobertのブログ

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ポルノグラフィティの最新アルバム『暁』感想。

ポルノグラフィティの5年ぶりのアルバム『暁』。
2020年末の配信ライブ「CYBERロマンスポルノ'20 ~REUNION~」(以下「CYBER」)のMCで昭仁が
ポルノグラフィティ、全盛期はこれからです」
と言っていたけど、その言葉に違わず最高のアルバムでした。

アルバム全体を通して、
①何かしらの「愛」を歌った曲が多い*1
②ファンタジー要素が強い
③応援歌が多い
という印象があります。

それでは1曲ずつ感想です。


1. 暁

youtu.be

アルバム1曲目から疾走感のあるロックチューン。これは『BUTTERFLY EFFECT』のときの「THE DAY」始まりと同じですね。ダーク寄りのロックチューンという意味で言えば『RHINOCEROS』の「ANGRY BIRD」始まりも思わせます。
そして『ロマンチスト・エゴイスト』以来のアルバムタイトル曲。ただ「ロマンチスト・エゴイスト」は元々カップリング曲として既発だったので、初の「純粋な」タイトル曲です。

この曲はまず、がっつり韻を踏んでるのが珍しい。「痛い立ち位置」以来?

西の空には赤月 目を背けるのは容易い
書き直したいあらすじを隠し持っているのならば

iiooaia aaui eooueuoa aaui
aiaoiai aaui oauioeiuoaaa

「は赤月」「は容易い」「た(い)あらすじ」(aaaui)
減っている場所は異なりますが、それぞれ二文字減って「隠し」(aui)と「ならば」(aaa)も踏んでます。
「(そ)らには」「書きな(おし)」「たいあ(らすじ)」(aia)

反転させるべきは思考 論点をずらす解答
安全主義者らの敗北が物語っているだろう

anenaeuei aiou onenouau aiou
anenuiaao aiou aooaaeiuaou

「反転」「安全」(anen)
「は思考」「解答」「敗北」(aiou)
脚韻だけでなく頭韻も!

変わり映えのしない世界 形だけつくろう女神
はやしたてては競り合いばかりを増殖させる

aaiaeoiai eai aaiaeuuou eai
aaiaeea eiai aaioououaeu

「変わり映え」「形だけ」「はやしたて」(aaiae)
二文字減って「ばかり」(aai)も踏んでます。
「世界」「女神」「競(り)合い」(eai)
「しない世界」「(競)り合いばかり」(iaieai / iaiaai)*2
こちらでも脚韻だけでなく頭韻も踏んでいます。
韻の数はここが一番多いですね。

希望の旗を振りかざす 不安はいつも食い下がる
アクシデントは同時多発 手に負えなくなる前に

iouoaao uiaau uanaiuo uiaau
auienoa ouiaau eioeauauaei

「振りかざす」「食い下がる」「(ど)うじ多発」(uiaau)

……晴一、すごい。(笑)
彼は「韻を踏むという縛りを自分に設けたことで、最初に思い描いていたストーリーの行く先が少し変わっていくところがあったのが新鮮で面白かったです」*3とインタビューで答えていますが、KREVAもよくこんなこと言ってるな。


そして歌詞は強烈な言葉が並んでいますが、

期待と失望とは いつだって共犯者
乱反射をして視界を奪う その手口は見抜いているのに

ここの比喩表現なんかすごい。作詞家・新藤晴一の面目躍如。*4

弱き者よ 目覚めたなら決意を込め
狙いを定めて 明星を撃てよ
大地に膝ついたままで天を仰ぎ
弱き者よ どれほど待っている? 暁

最後の歌詞は「テーマソング」とも通じますね。

ほら 振り向けば夕日があって 燃えるような熱い赤
その胸は 震えてるか?

どちらも「聴き手を鼓舞する」という意味ではこれ以上ない曲になっていると思います。

そして曲のアレンジで言うとストリングスが効果的に使われているなという印象です。特にサビのスリリングさ!
そしてドラムもけっこうトリッキーなリズムを刻んでいて、ただただすごいとしか言えません。

2. カメレオン・レンズ

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このアルバムの中で一番古い曲。「オー!リバル」以降顕著になったEDM系統曲の最高到達点とも言える曲。
少し浮遊感のある「ほら、これがEDMですよ」と言わんばかりのイントロ、何回聴いてもワクワクします。
この「浮遊感」っていう意味ではペット・ショップ・ボーイズの"Love etc."にも通じますね。

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未だに「UNFADED」でのイントロでライトが切り替わる演出が強烈に印象に残っていますが、「CYBER」での演出もすごくよかった。

歌詞に関しては「僕の中でも大きなテーマの1つである『人間同士は果たしてわかりあうことができるのか?』が歌詞のモチーフ」*5だそうですが、「結局分かり合えないよね」という諦観も感じられるものになっています。*6

個人的に一番好きな歌詞はここ。

不吉な声でカラスが鳴いた あれは僕が君の空に放した
青い鳥なのかもしれないね 美しい羽だった
A blue bird has turned into a crow
I lost my beautiful feathers

日本語と英語で言ってることは変わらないのですが、最後の行で視点が「カラスと化した青い鳥」*7にすり変わってるのが上手いなと思います。英語詞で日本語詞の奥行きが出ているというか。

3. テーマソング

以前レビューを書いたのでそちらを参照。
pgrobert.hatenablog.com
ここしばらくは割とEDM調のアレンジが多かったのが、この曲はものすごく真っ直ぐなバンドサウンド*8
「新始動」にかける彼らの意気込みを感じます。
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4. 悪霊少女

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そして満を持して「悪霊」登場!
「悪霊に取り憑かれた女の子」の物語かと思いきや、「悪霊=恋の痛み」だったとは、歌詞の世界観に脱帽です。
イントロだけ聴くとすごく牧歌的な雰囲気だけど、歌が始まるや一気にスリリングな展開になるのがいかにもポルノグラフィティって感じがします。編曲は江口さんでさすがの仕事。
昭仁は「『館』とか『悪霊』とかってワードが出てくるとね、聖飢魔Ⅱが好きだった人間としてはたまらない感じがあります(笑)」*9と言っていますが、自分は烏丸蓮耶の館を思い出します。

5. Zombies are standing out

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「悪霊」からの「ゾンビ」。
「神vs神」のMCで昭仁が「僕らにとっても新機軸になった曲」と言っていましたが、まさにその通りの曲。
しかもこの曲はライブでより映える曲だと個人的には思っていて、実際「UNFADED」「神vs神」どちらも盛り上がりは格別でした。
WALKMANのCMのタイアップがついていたとはいえ配信限定シングルだったので、未だに広く一般に知られていないのが本当にもったいない。本当に「ポルノグラフィティといえば『アポロ』『サウダージ』『アゲハ蝶』」のイメージの人にこそ聴いてほしい。*10

EDMテイストは残りつつ*11、骨太なロックになっているのが「ザ・ポルノグラフィティ」という感じで何をか言わんやです。

6. ナンバー

「続・ポルノグラフィティ」で披露されたときはあまりピンときていなかったのですが、今回アルバムに収録されてから何度も聴いているうちに好きになりました。

これもまた牧歌的ないしは「みんなのうた」的*12でありながら歌詞は難解。「数字を盗む」って何?
どこかで「日々に追われて時間を気にかける余裕がない現代人のことを指している」というのを見てそれはそれで納得したし、「数えるのではなく満ちる/欠けるが合図」は月を指している=日々を表しているというのもどこかで見てそれもなるほどと思ったけど結局どういうことなんだろう……と謎が深まるばかり。
でも「間違いだけで作る可憐なドレス」も分からなかったしな……

7. バトロワ・ゲームズ

『暁』の「MICROWAVE」枠ですね。編曲も同じトオミヨウ。
やっぱり冒頭のSEはPS2の起動音なんでしょうか?
そして3分ないハイパー短い曲ながらいい意味でその短さを感じさせないのがすごい。
現実とゲームの世界の境目がついていない状態を「世界線はどっち」と表現するのが上手い。
間奏がギターソロではなくキーボード(シンセ?)なのが、ポルノの曲としては珍しいです。

8. メビウス

これも「続・ポルノグラフィティ」で披露されたときはあまりピンときていなかったのですが、今回アルバムに収録されてから何度も聴いているうちに好きになりました。
でも未だに歌詞のほとんどがひらがなで表されているのはなぜなのか分からずじまい。

9. You are my Queen

すごくシンプルなアレンジ。だからこそ昭仁の歌の上手さが引き立ちますね。
「3歳くらいの女の子に語りかけているような」*13イメージで歌詞を書いたようですが、道理で微笑ましい感じの歌詞だったんですね。

10. フラワー

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広い意味でこの曲も「応援歌」と言える気がしていて、というのも生命力溢れる「花」に仮託して、「そこに咲いているだけで こんなにも美しい」から「I wanna be so strong」であろうとする歌い手の気持ちとシンクロしたときに「応援歌」たりえるのではないかと……


11. ブレス

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この曲、実はとても苦手でした。
それがアルバムで聴いたらそんな気持ちも消えてなくなっていました。
ポケモン映画の主題歌だったとは思えないくらい皮肉が効いている歌詞なのはさすがとしか言えません。
その一方で「ありのまま 君のままでいいんじゃない」とか「誰も君の道は行けない」とか歌詞で言ってるし、晴一自身もこの曲は応援歌だって言ってるんですよね。

12. クラウド

どの「クラウド」だ?と思っていたらIT用語の「クラウド」でした。でも「遠いお空のクラウド」には雲の「クラウド」もかかってますね。

そもそもIT用語の「クラウド」がなぜ「クラウド」と言うのかは諸説あるようですが、一説によれば「インターネット(雲)の向こう側のサービスを利用していることから、クラウド(cloud=雲)と呼ばれるようになった」*14ようです。
ということは、「遠いお空のクラウド」という歌詞はまさにこの由来通りの歌詞ということになります。恐るべし……
それにしてもこういう「その時ならでは」の言葉のチョイスが上手いですよね。「Google検索で世界を見る」しかり、「戦場からインスタグラム」しかり。

歌詞の世界観は「休日」もしくは「スパイス」の後日談だと感じました。あんなに仲睦まじかったのに、終わった恋を思い出して切なくなっているような、そんな光景を想像します。

ログインパスワードは覚えてる 忘れるわけのない数字さ
毎年二人で祝ったからね その後のストーリー 何も知らず

まさにここの「その後のストーリー 何も知らず」の頃が「休日」ないし「スパイス」なんじゃないかって……

13. ジルダ

結局ジルダとマグリオットって誰?
それにしても、昭仁の歌唱力でごまかされそうになりますが、彼氏のいる女性をナンパするな、って突っ込みたくなる歌詞世界。

14.証言

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「Fade away」を思わせるようなダーク・バラード。編曲も同じく江口さん。
終わった恋を思い出してそれを嘆きながらも絶望するのではなく「偽りのない奇跡」だったと「たくさんの星が証言してくれるはず」と肯定できているのが救いになっています。
そしてバラードとは思えないくらいトリッキーなドラムを叩いてて、田中さんすごい。

15. VS

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もはや実家に戻ったかのような安心感がありますね。大トリにふさわしい。
聴くたびに「神vs神」を思い出します。

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新始動したポルノグラフィティにふさわしい、最高のアルバムになっていると思います。進化を続ける彼らは本当にすごい……これからもついていきます!

*1:ポルノグラフィティ版『LOVE』(嵐)と言えるかも。

*2:「せ」と「ば」が惜しい!

*3:岡野昭仁新藤晴一が全15曲を徹底解説」https://natalie.mu/music/pp/pornograffitti08

*4:ちなみにここでも「共犯者」と「乱反射」で韻を踏んでますね。

*5:ポルノグラフィティ『カメレオン・レンズ』インタビュー」https://natalie.mu/music/pp/pornograffitti03

*6:上記のインタビューで晴一も「本当の意味でわかりあうことはできないんだよっていう」と言っています。

*7:'has turned'と現在完了が使われているので、「かつて青い鳥だったけど今はもう違う」というニュアンスが伝わります。

*8:BメロだけEDM感があります。

*9:同上インタビュー「岡野昭仁新藤晴一が全15曲を徹底解説」より。

*10:そしてついに「CDTVライブ!ライブ!」でフルサイズ披露されますね。最高……!

*11:ドラムも打ち込みの部分と豊夢さんが叩いてる部分とのハイブリッドになっているような……

*12:動物が大量に出てくるところが。もしくは「つながりうた もりのおく」。

*13:同上インタビュー「岡野昭仁新藤晴一が全15曲を徹底解説」より。

*14:クラウドとは?を分かりやすく解説」https://altus.gmocloud.com/suggest/cloud/